地震のあとの台湾の街を、少し混濁した意識状態でぷらりぷらりと歩いていた。いつものように短パンを穿いていたが、靴を履いていたかサンダルを履いていたか判然としない。ポケットの中にはいくらかの裸の紙幣があった。日本円と米ドルのようだったが、何枚あるのか数えられなかった。漠然とそこを台北と思っていたが、地図もなく、具体的にそこがどこだかはわからなかった。朝、1度、目が醒めて、TVをつけたまま再び眠ってしまったのだった。僕はしばしば異国の地をぷらぷらと歩いている夢をみる。それはたいていかつてしばしば訪れたことのある中東やヨーロッパの街並みだった。夢のなかで台湾を訪ねるのは初めてだった。しかしその風景はあとで考えてみると、1度だけ訪ねたことのある現実の台湾の街とはどこか違っていた。何しろそのとき僕は歩いて国境を越えて台湾に入ったのだ。
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