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木下修 『書籍再販と流通寡占』 (アルメディア)


 「著作物」という用語については、著作権法上の定義と独禁法上の定義との間に相違がある。
 独禁法は「再販売価格維持行為」を原則的に禁止しているが、その適用除外を定めたのが24条の2である。
 うち「指定再販」については、本年4月1日にすべてその指定が取り消され、現在、指定再販は存在していない。
 うち「法定再販」についての定めである第4項は、その対象である「著作物」の範囲を規定していない。
 一応、再販制度導入当初、「著作物」は書籍、雑誌、新聞、レコード盤の4品目と解釈されていた。しかしその後、音楽用テープと音楽用CDがレコード盤に準じるものとして取り扱われるようになり、現在、法定再販は6品目に増えている。
 CD-ROMについては「著作物」と見なしうるかどうかが問題になっている。
 現在、新しい情報媒体の登場にともない、法的安定性のためにも「著作物」についての範囲を限定・明確化する必要がでている。

 フランスは書籍再販が許容されているが、新刊書は最初から5%以内の値引きができ、刊行後24ヶ月経過し、かつ仕入から6ヶ月を経た書籍は自由価格で販売ができ、例外規定も多い。
 ドイツも出版物が適用除外再販になっているが、やはり市場メカニズムが働いており、再販制度は弾力的に実施されている。
 イギリスは書籍再販が適用除外になっていたが、本年3月に制限的慣行裁判所が「正価本協定」を違法であるとする判決を下したために、書籍再販制度は終焉し、日本の出版業界に大きなショックを与えた。

 1980年に公取委の指導により、「新再販」が実施された。
 これにより著作物再販制度には「時限再販」や「部分再販」の考えが導入されるはずだった。
 部分再販というのは、何年か前に深夜叢書社から吉本隆明の著書が部分再販の非再販本として出版され、話題になったように(「出版流通時評/1996年4月10日」参照)、「すべての書籍・雑誌が自動的に再販売価格維持契約の対象になっている点を改め、出版社の意志で再販にするか否かを決めることができる」というものである。
 時限再販というのは、現在、フランスで行われているように「再販に期限を設け、一定期間経過後は、出版社の意志で再販からはずすことができる」というものである。
 しかし「新再販」に移行して、17年が経過した現在、これらの制度はなぜかほとんど活用されていない。
 買切系の出版社としては、岩波書店・アスキー・未来社・創文社などがある。
 委託取引系の出版社としては、有斐閣・東京大学出版会・みすず書房などがある。
 岩波書店の取引は完全買切型(注文買切方式)であり、「原則として」返品を認めず、しかも大正4年に再販売価格維持を実施してから値引き販売を認めていない。
 現在、日本の書店は約2万店あり、世界一である。
 書籍の価格を考える場合、1960年代までは本がまだ稀少で大事に扱われており、貸本屋がピーク時で3万軒以上存在していたように、読み捨ての時代ではなかったということも考慮に入れる必要がある。

 日本の出版流通チャネルは取次ルートが約70%という圧倒的シェアを占めており、取次ルートにおける2大取次のシェアは推計で75%以上と言われてる。
 2大取次とはトーハンと日販のことである。
 取次・売上高トップの日販は、出版社・売上高トップの講談社の約4倍、書店・売上高トップの紀伊國屋書店の約7倍の規模である。
 2大取次のいずれか一方と取引ができれば、出版社の場合は1万店以上の書店、1万5千店近くのコンヴィニエンス・ストアと、書店の場合は約3千の出版社と、それぞれ取引関係をもったのと同じ効力を得ることができる。
 出版物の一元的配給機関として設立された日配が9分割された後、その遺産を引き継いだトーハン・日販という2大企業が、現在も2社寡占体制(複占)を敷き、全国の書店を系列下に置き、メーカーをコントロールしかねないパワーをもっているという歴史的事実がある。
 言論・思想などを表現した特殊な文化的商品である出版物の流通を受け持つ取次には「公器性」「公共性」「透明性」が要請される。

   つづく


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